夫婦の誕生を「歩く」を
通して感動に変換する力

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旧くは「祝言」と呼ばれていた夫婦の誕生を祝う習慣が、結婚式という明確なイベントとして進化したのは明治時代と言われている。

 

そして、そんな結婚式において「キリスト教式」が取り入れられたのは戦後のこと。

 

その後、徐々にキリスト教式の結婚式の実施率はあがっていき、2000年代以降には結婚式を実施する夫婦の過半数がキリスト教式の結婚式を選択しているという。

 

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なぜ、欧米で生まれた結婚式の形式がこんなにも普及したのか、という問いに対しては主に2つの理由が挙げられる。

 

ひとつは、1981年に行われたダイアナ妃のロイヤルウエディングや、’90年代の芸能人のキリスト教式結婚式の報道も相まってキリスト教式の結婚式に対するあこがれが一般大衆の間で醸成されたということ。

 

そしてもうひとつは、祝言と比較するとかなり短時間のイベントであるにも関わらず、キリスト教式の結婚式には緻密に設計された「感動」を生み出す演出が詰まっているから、ということである。

 

その代表例はバージンロード演出。

 

祭壇前にいる新郎のもとへ、父親が花嫁とともに歩いていくという一連の流れに、涙した人も少なくないであろう。

 

さて、今回取材したのは映画「ビリギャル」(2015年/配給:東宝)のモデルでもあり、フリーランスで活動している人気ウエディングプランナーの小林さやかさん。

 

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一組のカップルに心から寄り添い、その場にいる全員の一生の想い出になるように結婚式を創り上げるプロフェッショナルである。

 

このインタビューでは、キリスト教式結婚式の中で最も重要ともいえるバージンロード演出に焦点を当て、歩くことから感動を生み出すことの意味や価値、そして結婚式自体の魅力を聞いてみた。

 

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花嫁が人生で最も美しい瞬間であり、新しい家族が生まれる瞬間でもある。だからこそバージンロードは素敵でなければいけないんです。」

 

私たちの仕事内容は、カップルと一緒にどんな空間でどんな衣裳を着て、どんな時間を結婚式で創り上げていくのかということを決定して、それをカタチにしていくということなのですが、実はそれ以上に重要な役割をもっていると私は思っています。

 

結婚式って、今まで別々の人生を歩んできたふたりがひとつの家族として再出発することだと思うのですが、それにあたって価値観のすり合わせを行う時間が必要だと思うんです。これから一生をともにしていくわけですからね。

 

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でも、実際にはふたりが結婚式の中身に関して話す機会はあっても、結婚式や結婚生活にどのような想いを描いていて何を理想としているのかを建設的に話し合う場って意外とないような気がして……。

 

結婚生活がはじまってからお互いの考え方の違いや価値観の相違に気付くカップルも少なくないと思うんです。

 

だからこそ、ふたりと密接な関係を築くことができる私たちのようなウエディングプランナーが、結婚式の準備期間というふたりが協力して様々なことを決めなければならない時間を利用して、価値観をすり合わせる場を意図的に創っていくという役割も担っていくべきだと思うんです。

 

そんなこともあり、私が担当する結婚式の打ち合わせでは、カップルが互いに納得している状態にならない限り話をあえて前に進めない、ということがよくあります() 

 

自分でもおせっかいが過ぎるのかなって思うことも時にはあるのですが、当日までにお互いが深く理解しあって同じ方向をむくと、やっぱり結婚式で生まれる感動の大きさって全然違うんですよ。

 

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特に結婚式のハイライトでもある花嫁とお父様がバージンロードを歩き、新郎にバトンタッチをするシーンにおいては、それが如実にあらわれますね。

 

たった数メートルの距離を歩く行為を深い感動へと変換するためには、私たちがカップルの仲介に入って価値観のすり合わせをおこなうことが本当に大事なんです。

 

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語弊を恐れずにいうなれば、結婚式って究極のエンターテイメントだと思うんです。あんなにもヒトを想い、ヒトに涙し、ヒトに感謝する日って中々ないですからね

 

いままでに様々な結婚式みてきましたが、その中で最も印象的だったのは、当日まで新婦のお父様がいらっしゃるかどうかわからない、という私の当時の上司が担当した結婚式でした。

 

ふたりとも二十歳になったばかり、という若いカップルのおめでた婚だったのですが、新婦のお父様は結婚に猛反対だったみたいで……。

 

打合せはもちろん、当日の朝も結局お父様はいらっしゃいませんでした。

 

そしてついに新婦入場の時間になり、モーニングを用意して待っていたお母様と新婦だけでなく、我々もあきらめかけたその瞬間に、なんとお父様が現れまして。

 

結果、バージンロードをふたりで歩き、新郎に娘を託すことができたのですが、お父様がいらっしゃった時に照れ隠しで放った言葉が忘れられなくて。

 

『あいつを殴りにきたんだ』ってお父様が言ったんです。

 

その言葉には、直前まで行くかどうか悩んたけど最終的にはふたりの幸せを想い『娘とバージンロードを歩きたい』と、駆けつけたお父様の不器用な気持ちが詰まっていて、なんだか胸がいっぱいになってきまして。

 

そして、『娘と歩き新郎に娘を託す』ということがヒトを動かすパワーを改めて実感したんです。

 

行為としては『ただ歩くだけ』のことなのですが、ヒトの想いが積み重なるとそれが不思議と計り知れない感動を生む、というような奇跡が起きることが結婚式の最大の魅力だと私は思っています

 

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もともとウエディングプランナーになったきっかけは、学生時代からヒトと関わり、ヒトとヒトとの接点を創る「サービス」に関心があったから、そしてウエディングプランナーこそがサービスの頂点だと思ったから、と語る小林さやかさん。

 

彼女曰く、どんなカップルにもそれぞれ絶対に感動ストーリーがあり、それを結婚式の場で内外面に引き出して式後も続く夫婦の幸せの種を創ることがウエディングプランナーであるという。彼女の想う高次元の「サービス」は今日も活きている。

 

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ウエディングプランナー/小林さやか

1986年生まれ。学年でビリだったギャルが慶應義塾大学に入学するまでを描いたノンフィクション映画「ビリギャル」(2015年/配給:東宝)のモデルとしても知られる小林さやかさん。原作である「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話」(坪田信貴著/発行 株式会社KADOKAWA アスキーメディアワークス)は120万部を超えるベストセラーに。大学卒業後は国内大手ブライダル企業を経て独立。現在はフリーランスのウエディングプランナーとして活動している

 

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