「靴をみればその人の成りがわかる」
とはよくいったもので、人類が履物の概念を生み出して以来、靴と人は密接な関係を紡ぎつづけてきた。
あれから約5000年、さまざまな環境で安定した歩行を確保するために誕生した重要な移動ツールは、文明の進化に伴いその立ち位置をかえ、こと現代においては消耗品のひとつとして社会に浸透している。
そんな中、ひとつの靴と長年連れ添うということに価値をおき、メインテナンス・修理をよりリッチなサービスとして銀座・青山・新宿を中心に展開するショップが「UNION WORKS」だ。
創業から22年、きちんと仕立てられたスーツに身を包んだスタッフがクラシカルな内観のショップでカスタマーを出迎え、靴を愛する人のために最適な解を提供する、そんな同ショップの代表、中川一康さんに「靴」を「歩くためのツール」として捉えた際の魅力を聞いてみた。
「靴は買った日が一番かっこ悪い。歩いて歩いて、しっかり履きこむことで段々と完成へと導かれていくんです。」
私たちが修理やメインテナンスを行う靴は、19世紀後半に確立されたグッドイヤーウェルテッドという製法でつくられたレザー製のものが主でして、この製法でつくられた靴は履く頻度や、メインテナンスの仕方によっても変わりますが、理論上は半永久的に履きつづけることができるんです。
僕が今日持ってきた2足のトリッカーズの靴も、それぞれブラックの方が15年、ブラウンの方に関しては21年履いていますが、メインテナンスをしっかり行っているので今でも現役で頑張ってくれています。
世の中の大概のものは新品状態の時が一番美しいとされますが、靴、特に僕たちが取り扱っているような伝統的な製法でつくられたレザーシューズは履きこんでその人にしか出せないアジが出はじめた時が一番かっこ良いんです。
新品状態だと、見る人が見るとやはり履かされている感じがにじみ出てしまいますからね。
そう、だからこそ歩きたくなる。
ひとつの靴を大切に履きつづけて少しずつ『自分のモノ』にしていく過程を、ぜひ多くの人に知ってもらいたいです。
「靴への愛が時に我々を外に連れ出すきっかけにもなることもあると思うんです。」
靴は道具。
当たり前のことですが使って初めて意味をなすものです。
僕も仕事柄というか、もともと靴が好きでこの仕事をはじめたという経緯もあり40~50足ほどの靴を持っていますが、それぞれに役割や履きたくなるシーンを少しずつ分けていて、なるべくすべてのシューズをまんべんなく履きこむようにしています。
面白いのが、時に『この靴を久しぶりに履きたいからあそこに行こう』みたいな、外に出るきっかけを靴が与えてくれることもあるということなんです。
歩くために必要な『ツール』が、歩く口実・目的を作ってくれることもあるんだという(笑)
特に長く連れ添っている靴の場合、その靴自体に想い出が蓄積されていきますし、過去に行った場所や旧友の元に同じ靴で出向いて見る風景、見る足元はなんとも言えない特別な気持ちを僕たちに与えてくれるんです。
数年前に話題となった、英国のチャールズ皇太子が40年以上履きつづける「ジョン・ロブ」製の靴。
補修用のレザーパッチがあてがわれ、何度もソールの張り替えがおこなわれたであろうこの靴をピカピカに磨きこみ、メディアの前に姿を現した皇太子の姿が記憶に新しい方も多いであろう。
消費することが当たり前となった現代において一国の皇太子がひとつの靴を愛し、半世紀近くの間履きつづける事実。
そして中川さんが与えてくれた靴がヒトに与える影響値。
モノがツールとしての機能を超え、ヒトの想いに寄り添った時に見える姿がとても新鮮だった。
シューリペア職人/中川一康
1965年生まれ。某シューリペア工房で修業後、1994年に独立し「UNION WORKS」を創業。英国靴に特化し、シューリペアというコンテンツ自体をリッチ化した指針は業界に大きな影響を与えた。現在「UNION WORKS」は渋谷、青山、銀座、新宿、高津に店舗を展開している。